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がん治療における「Off-the-Shell」CAR-T 療法の進展 – RNAi 技術との併用

 

CAR-T細胞とは、癌細胞を特異的に認識し攻撃するために、特定の種類の癌細胞を認識するchimeric antigen receptor(CAR)を発現するように遺伝子操作されているT細胞です。現在承認されているCAR-T療法では、治療を受ける患者由来のT細胞を用いられますが、同じ疾患に罹患した他の患者に使用することはできません。そのため現在、「off-the-shell」すなわち同種移植が可能なCAR-T療法の作製が大変な注目を集めています。同種移植CAR-T細胞は、抗原に反応するCARがコードされた遺伝子を健康なドナー細胞に組み込み作製され、かつ非特異的に患者に使用できる理想的な細胞療法です。

 

現在、RNAiを使用して、ゲノム編集を行わない同種移植CAR-T細胞の研究が進められています。同種移植CAR-TR療法では、ドナーのCAR-T細胞が正常な宿主細胞と非特異的に反応しないようにする必要があります。ベルギーのバイオテクノロジー企業Celyad社は、shRNAを用いるさまざまな方法を検討し、CD3-zetaと呼ばれる複合体内の特定のタンパク質の発現を抑制することによって、T細胞内のT細胞受容体(TCR)複合体の形成を抑える方法を開発しました。TCR複合体は、T細胞表面に存在する8つのタンパク質で構成されており、T細胞の重要な機能を担っております。CD3-zetaタンパク質が存在しないと、TCR複合体はT細胞表面に正確に発現されず、シグナルを細胞内に正しく伝達できません。これにより、ドナー由来の改変T細胞は宿主自身の細胞を攻撃することで引き起こされる、移植片対宿主病 (graft-versus-host disease: GvHD) を抑制することができます。

 

Celyad社によると、shRNAを用いて作製したCAR-T細胞 (shRNA-modified CAR-T cells) は、CRISPR-Cas9によって遺伝子抑制を行った細胞 (gene-edited CAR-T cells) と同程度のTCR複合体ノックダウンを示しました。また、それぞれのCAR-T細胞を投与したマウスおいて、同程度の生存率が認められ、GvHDの特徴的な症状である大幅な体重減少も見られませんでした。

 

興味深いことに、shRNAを用いて作製したCAR-T細胞の方が、CRISPR-Cas9によって作製したCAR-T細胞よりも長く宿主内に持続されました。 Celyad社は、shRNAシステムは完全な「オンオフ」制御ではないため、shRNAによって作成されたT細胞では、低レベルでTCR複合体シグナル伝達が働いている可能性があると仮定しました。これにより、ゲノム編集でシグナル伝達を完全に遮断された細胞に比べ、、shRNAシステムを用いたCAR-T細胞は、健全で、持続性があり、複製力も高く、正常のT細胞と同じように振る舞えるのではないか、と考えられます。

 

shRNAシステムを用いたCAR-T細胞は、コスト削減、簡易性、またはRNAiの長い歴史を考慮にいれると、これからますます注目を集めることでしょう。

 

 

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